エジプトで軍部によるクーデターが発生した。国軍がモルシ大統領を拘束・解任し、新政権の組閣もほぼ終わった。上院も解散され、遠からず、大統領と国会の選挙が行われるようだ。

クーデターの背後には、長年にわたってエジプト軍部への支援を行ってきた米国がいるといわれる。モルシ前大統領はイスラム系組織「ムスリム同胞団」の出身とはいえ、民主的選挙で選ばれたわけで、米国としてもこれを倒すことを公然と支持するのははばかれる。そこで、「クーデター」という言葉を使わないなど、一種涙ぐましいことまで行っている。

さて、それとは別に、2011年の「アラブの春」(ここからの一連の政変で、エジプトではモルシ政権が発足した)は、米国の政策と切り離しては理解できない。どういうことだろうか。

■米国の緩和策で小麦価格が高騰
米連邦準備理事会は2010年秋、6000億ドル規模の大規模な量的緩和第2弾(QE2)の実施を発表した。実は、これが「アラブの春」の大きな背景である。

緩和策は、国債やリスク資産と引き替えに金融機関にドルを供給することだが、ドルを得た金融機関はそれを使ってさまざまな投資を行った。この当時、投資先になったのは一つは新興国であり、もう一つは商品先物市場、とくに食料であった。

たとえば、QE2実施前はトン当たり400ドル前後だった小麦価格(米国小麦)は、2011年初頭には800ドルを突破する水準にまでなった。これに対応すべく、ロシアなどいくつかの小麦輸出国が輸出を停止した(国内需要を優先するため)。ロシアには、干ばつに襲われて生産が落ち込んだという事情もあった。これがさらに価格を高騰させた。

■中東の貧困層に大打撃
困ったのは、エジプトなどの小麦輸入国である。小麦はエジプトの主食である上、ロシアからの輸入が多かったこともあって打撃は大きかった。低所得者層は、たちまち食べ物を得られなくなった。食料があるのに買えない。このような事情は「新しい飢餓」と呼ばれた。

もちろん、長期の独裁政権の制度疲労と、それに対する国民の不満が蓄積していたこともある。事情は、隣国のチュニジアでも似たようなものだった。こうして、2011年はじめから中東や北アフリカの各国でデモ行進が頻発、政権が倒される「アラブの春」となった。Facebookなど、インターネットが運動の発展に果たした役割も忘れられない。

このように、米国の緩和策の与えた影響は実に大きかった(厳密には欧州や日本の緩和策の影響もあるのだが、程度では米国のものが圧倒的である)。

■他の国はどうなるか…
今回のエジプトのクーデターは発足後1年を経過したモルシ政権が、公約を果たせていないことと、これへの反発が大きい。

これに加え、数年にわたる政情不安でエジプトから資金が流出し、通貨安となって輸入物価を押し上げているという問題もある。主食の小麦価格は一向に下がらず、生活苦は続いているのだ。

問題は、資金流出による通貨安、輸入物価上昇という現象が、新興国に広がりつつあることだ。最近、ブラジルやトルコが政策金利を引き上げた。両国とも決して景気が良いわけではないのに金利を引き上げるのは不自然。引き上げは、資金流出と物価上昇を抑えることが狙いなのだ。

近々、モスクワで行われる20カ国・地域(G20)会合では、この新興国のリスクについて議論が行われる予定だ。どのような対策が議論されるか、注目したい。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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