来年4月に控えた消費税増税(現行の5%を8%に)について、与党、とくに自民党と周辺の意見が盛んになっている。「延期」「引き上げ分の税率変更」「予定通り実施」に大別されるが、それぞれに難しい問題を抱えている。

安倍首相は9~10月には増税の可否を判断しなければならない。参議院選挙で大勝して「安定政権」を手に入れたが、処理を間違うと大変なことになる。

■財政赤字の解決は不可避
誰でも増税はイヤだ。それがなぜ問題になっているかといえば、日本の国と地方の累積財政赤字が国内総生産(GDP)の2倍を超える巨額になっているからだ。国家債務(ソブリン)危機で破たんの危機に瀕したギリシャでさえ、累積財政赤字はほぼGDPと同額なので、日本の赤字額は「先進国随一」といえる。

通常、これだけの赤字を抱えると、政府の発行する国債が売れなくなり、金利が高騰する。すると、国は赤字を返済できなくなり「債務不履行」(デフォルト)する。まさに「国家の破たん」だが、意外にデフォルトを行った国は、歴史上珍しくない。最近では、2001年にアルゼンチン、2008年にエクアドルが外貨建て債務をデフォルトしているし、1998年代末にはロシアが「事実上のデフォルト」、すなわち支払い一時停止と現物支給に追い込まれている。日本も、累積赤字を返せなければそうなる。

ただ、日本が他国と異なるのは、累積債務の債権者(国債保有者)の大部分が国内の金融機関であることと、投資家が「増税余地が大きい」と見ているからだ。国内の金融機関が保有者なので「安全」かどうかか議論が分かれており、この問題については別の機会に譲る。

いずれにしても、GDPの2倍に達する赤字は減らしていかなければならず、増税または国家・自治体予算の縮減は避けられない問題といえる。

■「投資家がどう思うか」が問題
問題は、「増税余地が大きい」という点だ。これは国内外の投資家が「そう思っている」ということで、日本国民の実感とは別のことである。

仮に、消費税増税が「延期」されたり、「引き上げ分の税率変更」がなされたりすれば、投資家が「日本政府は赤字を返済できないのではないか?」という疑いを強めることになる。そうすると、その投資家は手持ちの国債を売ることになる。

現在、日銀は「量的・質的緩和」を行い、金融機関から国債を買い取っており、ただでさえ、メガバンクなどは手持ちの国債を日銀に買い取ってもらっている。そこに他の投資家の国債売りが重なれば、金利上昇の可能性はある。金利が上昇(国債価格が下落)すると、国のデフォルトだけでなく、国債を持っている金融機関の経営が揺らぐ。これは金融危機を招きかねない。

安倍政権としては、投資家の不安感をあおりかねない消費税増税の延期は、できれば行いたくないだろう。仮に行うとすれば、日銀によるいっそうの緩和策実施か、増税に向けたタイムスケジュールの明確化が迫られる。いずれにしても、安倍政権は難しい判断を迫られることになる。まさに「大勝に浮かれているヒマはない」のである。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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