シリアをめぐる情勢が混とんとしてきた。「化学兵器の使用」を理由にアサド政権への攻撃を明言したオバマ米政権だが、ここにきて動揺しまくりだ。

この余波で、米国を支持するかどうか揺れていた国々まで右往左往している。いったい、どこでどうなったのだろうか?


■英議会の否決が転機
8月末、「アサド政権が化学兵器を使用」との報道が流れ、シリアをめぐる情勢は一気に緊迫した。オバマ大統領はそれ以前から「化学兵器の使用がレッドライン」と述べてきていたし、ホワイトハウスは「アサド政権側が使用した」と言明、自らを攻撃の方向に駆り立てていた。ここまでは、2003年のイラク戦争当時を思わせる状況だった。

違いもあった。長年のアフガニスタンとイランへの軍駐留に、米国民のえん戦気分は高かった。イラク戦争を批判して登場したオバマ政権だけに、「公約違反」の印象もあったろう。

オバマ大統領が拳を振り上げたのは、来年に迫った中間選挙を意識して「強い大統領」を印象づける狙いもあったのだが、肝心の世論の支持が得られなかった。ここに追い打ちをかけたのが、英国議会の「参戦否決」である。オバマ政権にとって、最大の同盟国の「離反」は意外であったに違いない。

すでに地中海に展開していた米軍は、8月31日にも攻撃を始める態勢にあったようだ。だが、オバマ大統領の下した判断は、攻撃の可否を議会に求めるということだった。「国民の代表」である議会の承認を求めることで、ブッシュ前政権がイラク戦争で行った「独走イメージ」をつくらせないことをもくろんだのだろうが、これが、いわば「弱腰の第1弾」となった。

※「弱腰」というと、筆者がシリア攻撃を支持しているかのような印象を受けるかもしれないが、ここでは政治姿勢の客観的な評価としてこの表現を用いている。

■ロシアに翻弄される……
ここでオバマ大統領がとった手立ては、ロシアで行われた20カ国・地域首脳会議(G20)で諸外国の支持を集め、それを手土産に国内を説得しようというものだった。だが、会議の議長国はシリア攻撃「反対」の急先鋒のロシアで、いわば「敵の土俵」。シリア問題は「夕食時のネタ」にしかならず、案の定、支持も得られず、共同声明には盛り込まれなかった。

超大国のリーダーともあろうものが、外国の支持をあてにしたのが、「弱腰の第2弾」だ。

ロシアは次いで、シリアが保有する化学兵器を国際機関に引き渡し、廃棄するという提案を行った。直接には、米国をけん制することを狙ったものだ。だが、ここでもオバマ政権は「弱腰の第3弾」をさらしてしまった。

当初、ホワイトハウスは「1週間以内の廃棄」というムチャな要求を出し、攻撃に固執する姿勢を見せた。これは、交渉時によくある手段で、これはこれで理解できる。だが、それに続いたオバマ大統領の発言は、ほとんど、ロシアの発言に「飛びつく」もので、ロシア提案を国連安全保障理事会で協議し、米議会での攻撃決議案の採決を先送りするというものだった。

これは事実上、シリア問題での主導権をロシアに渡すものである。

■今回の問題で世界のすう勢が見えてきた
前々週の記事で、「米国が振り上げた拳をおさめた例はない」と書いた。おさめれば国際的威信が失墜するからだ。もちろん、今になってシリアを攻撃しても、別の意味で国際的孤立と国内的反発は不可避だ。オバマ政権にとっては、どちらに転んでも悪い結果しかない。

シリア問題をめぐる最終的な結果は出てはいないが、一連の事態で明らかになったのは、超大国である米国への信認の低下、威信の弱まりだ。攻撃に反対したロシアや中国は、「利」を得た。

もちろん、米国の経済力はいまだ世界一で、ドルの強さは並ぶべきものがない。それにしても、世界の大きな流れとして、米国の力の低下は隠せない。長期の投資を考える場合、この視点は頭の片隅に入れておきたい事実である。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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小沼正則
メディアバンク株式会社
2013-07-29