シリア問題をめぐる国連決議に関する議論が進んでいる。これまでも述べたように、武力攻撃の拳を振り上げたオバマ政権は、ロシアの提案に乗る形で当面の攻撃をあきらめた。

原油相場の高騰が避けられ、世界経済のリスクは遠のいたが、「米国の優柔不断」「影響力低下」は報じられる通りで、世界政治の構造変化は続いている。今回は、シリア問題の「中東以外」への影響を探ってみた。

■株を上げた? ロシア
まずは、ロシア。友好国であるシリアへの攻撃を思いとどまらせることで、プーチン政権は株を上げた。元情報局員スノーデン氏の亡命問題での米国に「煮え湯」を飲ませ、政権の求心力は高まったといえるだろう。ソチ・オリンピックも控え、経済効果も期待できる。

だが、やや「うまく行きすぎ」の感も。メンツをつぶされた米国がどのような対応をとるか分からない。シリア問題では、国連決議をめぐるつばぜり合いが続くだろう。また、同性愛者に対する厳しい対応や反体制的歌手への弾圧など、プーチン政権の人権問題への対応に対する、国際的批判のゆくえも気になる。

一人が多くを得ようとすれば、必ず嫉妬を買い、しっぺ返しを受ける。プーチン大統領が肝に銘ずべきことはそれかもしれない。

■シリアを攻撃させたかった? 中国
中国はロシアほどではないが、シリア攻撃に反対する立場をとった。

だが、本音はどうだったか? 中国が国際政治上の影響力を強めたのは、2000年代、米国がアフガニスタンやイラクでの戦争と、その後のリーマン・ショックへの対応に手を取られ、中国への関心が低まっていたスキを突いた面がある。オバマ政権は「アジア重視」を唱え、何かにつけて中国をけん制しているが、シリアを攻撃すればこれが弱まり、中国にとって有利になる可能性がある。

実際、ロイターの伝えるところによれば、中国・清華大学のソン・チェ氏は、「米国がシリア問題に介入すれば中国への圧力は少なくなるため、中国人は好ましいことだと考えている。こうした見地からすれば、中国政府は米国にシリア介入を促すべきだろう」と述べている。この発言がどのような経路で(ロイターの取材か、中国マスコミの掲載か)伝わったかのかは分からないが、公然と報じられていることは興味深い。中国の本音は、こんなところかもしれない。

■見捨てられる恐怖? 韓国
韓国は、米国の優柔不断さを苦々しく見ているようだ。つまり、シリアの化学兵器で武力攻撃できない米国が、北朝鮮の核兵器に対して厳しい態度を取れるだろうか? という不安である。

シリア攻撃の見送りについて、「中央日報」は「金正恩第一書記はシリアで決断をためらうオバマ大統領を見て、会心の笑みを浮かべるだろう」と皮肉った。また、9月24日のオバマ大統領の国連演説で、北朝鮮への言及がなかったことについて「東アジア遠ざけたオバマ外交」と述べている。

韓国の態度は、日本にとっては「他山の石」である。シリア問題では比較的冷静に米欧を見守る態度をとった安倍政権(これは正解だった)だが、米国が尖閣諸島問題で同じ態度をとらないかどうか、意外に、戦々恐々としているかもしれない。

経済と政治は密接な関係にある。経済の先行きを考えるには、世界政治の動きもよくウォッチしておきたい。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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小沼正則
メディアバンク株式会社
2013-07-29