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このところ大手海運株が堅調に推移している。
直接の背景は、ばら積み船市況の総合的値動きを示す「バルチック海運指数」が10月8日に2146ポイントと、今年の最高値を更新したことが挙げられる。むろん、昨年から言われてきた世界経済の伸び悩みが反転する気配を強めていることも大きい。とくに、資源需要に大きな割合を占める中国経済の「底入れ」感が強まっていることだ。「アベノミクス」実施による円安効果もある。
■供給過剰が言われるが……
海運各社は、2008年秋のリーマン・ショックで荷動き量の激減に直面した。2010年には荷動きが急回復を見せたが、ここで新造発注を再開したことが程度の差はあれ、供給過剰につながってしまった。また、燃料価格の急騰によるコスト高にさらされた。各社はおおむね、燃費効率を高めた超大型コンテナ船への代替を進めることで対処しようとしている。
ただ、船の発注から竣工までおよそ2年かかるという業界の構造を考えれば、多少の供給過剰は当然。問題は、それに耐えられる経営体力をつくることだ。
■郵船の動向
日本郵船<9101>の戦略は、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)・FSO(同貯蔵積出設備)などの海洋事業、LNG(液化天然ガス)船事業を積極的に拡大すること。これらは長期契約が基本なため、先に述べたような供給過剰が起きないという利点がある。併せて、営業力以上に船を長期で抱えることを避けつつ、不足分は割高でも短期用船で対処するという、カーゴロングの方針を維持する。
もうひとつは、高燃料効率船への代替を待たずに、減速運航、空コンテナの最少化といったソフト面の強化を図ること。空コンテナのムダな動きの最少化は、「EAGLEプロジェクト」として、最も力を入れている。また、10月1日に、日之出郵船とNYKグローバルバルクの統合を完了(NYKバルク・プロジェクト貨物輸送)、連結子会社間のシナジー効果で、バラスト航海の効率化を図る。
■商船三井の動向
商船三井<9104>は、2013年3月期に経営改革を実行した。内容は、ドライバルク船130隻の船価や用船契約を時価に見直したことや、自動車輸送船やタンカーの減価償却期間を15年から20年に延長したことが中心。これにより1010億円の構造改革損失を計上したが、いわば「損失の先食い」。
こちらも減速航海で燃油を節約するなど、コスト削減努力を継続している。2014年3月期の4~6月期は、不定期専用船事業が増収となるなどで収支が大きく改善、V字回復で業界トップに返り咲く勢いである。
■川崎汽船の動向
川崎汽船<9107>は、最近、約300億円を投資して自動車運搬船を発注したと、最近報じられた。また、今治造船で石炭船「コロナ・ロイヤル」が竣工。同社が独自開発した、電力炭輸送に適した石炭専用船で、これが16隻目となる。また、2018年満期ユーロ円建て転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行が決まったが、これは、先述した自動車船やLNG船への設備投資資金などにあてる計画だ。
同社の経営計画では、コンテナ船事業の構造改革、エネルギー資源輸送事業・新規事業等の安定収益化、ドライバルク事業・自動車船事業の安定収益拡大、投資抑制による財務体質強化の5つを掲げている。目標は、2015年3期の経常利益600億円(2013年3月期は120億円)である。全体に「攻め」の経営が見られることは評価したい。
最高益か赤字かといったように、業績のブレが大きいのが特徴的だが、今後はポジティブ・サプライズが相次ごう。上昇に転じてきた海運株だが、押し目は買いのスタンスで臨みたい。
(小沼正則)
※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。
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