中国が揺れている。首都・北京の中心部である天安門への自動車突入事件に続き、山西省太原市では共産党委員会の建物前連続爆発事件が発生した。

いずれも、事件の背後関係は捜査中で発表されていない。2つの事件に関連性はないと見られているが、中国政府・共産党に対する不満のあらわれには違いない。

世界経済はおおむね回復基調にあるが、この中で中国はリスク要因となるのであろうか。


■少数民族の不満が背景に?
天安門での事件については、容疑者としてウイグル族の数人が逮捕されている。

ウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区にはウイグル族のほか、モンゴル族など多数の民族集団が住んでいるのだが、イスラム系遊牧民が多かった。ここ数年、中国政府の西部開発計画によって、急速な経済発展を遂げてきた。中国政府は、自治区の開発のために年間約1500億元(約2兆4000億円)の財政を支出している。

経済発展は悪いことではないのだが、イスラム式住居や宗教施設が取り壊されたり、ウイグル族が利用していた土地が開発用に取り上げられたりした。ウイグル族の定住生活者が増える半面、自治区に進出した企業の経営者や管理職のほとんどは漢民族。

中国政府は悪いことをしているつもりはさらさらないのかもしれないが、ウイグル族の中には、急速な変化に対するとまどいや不満が高まり、独立運動が広がった。中央アジア諸国を経て、イスラム原理主義勢力も浸透した。2009年にはウイグル人と漢民族が対立、互いを集団で襲撃する「ウイグル騒乱」が発生した。死者の数は、一説では800人に達し、政府は「ウイグル独立」を掲げる各種運動体を「テロ組織」と認定するなどで、取り締まりを強化している。

太原市の事件に関する情報は乏しいが、天安門での事件には中国政府の開発政策に対する不満が背景にあると言えそうだ。

なお、日本のマスコミ記事には、ウイグル族は中華人民共和国の成立にともなって、初めて中国の支配下に組み入れられたかのような記述がある。公正を期すため書いておくと、これは誤りだ。この地域は、紀元前の漢王朝の時代から、「中国」の版図に入ったり、離れたり(独立国のような状態)していた。だから、ほとんどの漢民族には「もともと中国領」という意識がある。むろん、ウイグル族の意識はこれとは異なるのだろうが。

■共産党重要会議前の衝撃
新疆ウイグル自治区では、事件をめぐり、数十~数百人の「容疑者」が逮捕されているという報道もある。この程度の事件にしては逮捕者が多いので、独立運動体などが便乗的に「手入れ」をくらったということだろう。

中国政府・共産党がここまで過敏な反応を示す理由は、共産党の第18期中央委員会第3回総会(3中全会)が11月9日から行われるからだ。共産党の大会は5年に1回のペースだが、その間に重要政策を決めるのが「中全会」。歴史的に、「3」のつく中全会では重要な経済政策が決められることが多い。実は、今回も同様の予定だ。

兪正声・共産党政治局常務委員は、3中全会が「前例のない経済・社会改革を打ち出す」と述べている。予想されるのは、金融自由化や人民元の交換性向上、地方政府の債務管理に関する自由度拡大、戸籍制度の改革、経済特区の新設などだ。

ただ、いずれも失敗すれば中国経済を混乱させかねない政策であるため、反対論も多いはず。だから、これら全てが、今回の3中全会で決定されることはないだろう。政策の賛否には、当然、共産党内の派閥争いが絡んでくる。すでに、上海グループの利権である石油企業に対する汚職摘発が行われており、暗闘は激しくなっているようだ。

ここに民族問題という難題が重なることは、発足して1年あまりの習近平体制としては避けたいところ。だから、厳しい取り締まりで「火消し」を図っていると見るべきだ。中国政府・共産党にすれば、新疆やチベットなど内陸部の問題に手を取られると、日本や米国が一部アジア諸国と連携して進めている、海洋版の「中国包囲網」づくりに後れを取ってしまう、という懸念も抱いていることだろう。

ただ、中国の過度の混乱は経済的利害に響くため、米国や日本の政府も望んでいない。中国政府が「火消し」に懸命なのと同様、米国や日本、そして世界も、世界に影響を大きな与える国になった中国の先行きには注目するところだ。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

■電子書籍好評発売中(AmazonよりKindle版
あのファーストリテイリング(ユニクロ)を真っ先に推奨したこ
とで知られる“銘柄発掘のカリスマ”小沼正則の投資・ビジネ
ス塾が電子書籍になりました。第一弾は、最新情報と投資へ
のノウハウを読みやすくまとめ、初心者にもわかりやすくな
っています。スマホやタブレットでいつでも手軽に読めます。
まもなく第二弾、第三弾が登場しますのでご期待ください。


ITライフハック
ITライフハック Twitter
ITライフハック Facebook

ビジネス塾に関連した記事を読む
受注好調、世界経済安定で注目されるプラント業界 注目銘柄を斬る
景気回復でなくても株高?米国経済の不思議な現状
永守イズム建健在で、復活の道を歩む日本電産! 注目銘柄を斬る
増税まで待てない!日銀の追加緩和はあるのか?
上昇第2ラウンド始動!恩恵を受ける証券株 注目銘柄を斬る