■はじめに
1回お休みをいただいたので、本年最初の記事となります。今年は個人的に電子書籍の教育分野での利用、個人出版のすそ野の広がり、表現力の向上などについて興味を持って見ていきたいと思っています。

教育向けの電子書籍については、昨年「EDUPUB」(エデュパブ)という電子教科書の国際標準化の活動が始まりました。個人的にも昨年は、実験的なプロジェクトも含めてEPUB、HTML、e-ラーニング等の教育コンテンツを制作する機会をいただきました。

そんなこともあり、今回は広い意味での電子教材について少し考えてみようと思います。
なお、間違い・勘違いなどございましたらご指摘いただければ幸いです。



■e-ラーニングと電子教科書
e-ラーニングという言葉は随分前からありますが、広い意味ではパソコンや携帯端末などのIT機器を利用した学習を指します。昨今ではもう少し狭い意味で、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を利用した学習を指すことが多くなっていると思います。

LMSは一般的に、学習者管理・教材管理・学習状況管理などを行うサーバーとして位置づけられます。

例えば、学習科目がAからEまであったとして、学習者甲はA、B、Cが受講可能、受講者乙はA、D、Eが受講可能で、それぞれの学習進度や確認テストなどの受験状況や点数などを記録する、といった役割を持っています。

受講者が学習する場合、LMSから教材を取得しクライアント端末上で学習を進め、必要に応じて適宜学習状況がLMSに送信されます。

つまり、教材にはLMSとやり取りするための仕組みが含まれることになりますが、この通信の部分が規格化されていないとLMSも教材も特定の会社のものを使いつづけなければなりません。

言い換えると、ここが規格化されることで、LMSも教材も色々な会社が制作したものを自由に組み合わせて利用できることになります。そのような規格として現在多く利用されているのがSCORM(Sharable Content Object Reference Model)です。

一方、電子教科書は必ずしもLMSを利用したものではなく、スタンドアロンで利用できるものなども少なくありません。既存のe-ラーニング教材や電子教科書はAdobeのFlashで制作されたものなどもありますが、今後はスマートフォン・タブレット等で実行することを考慮して、標準規格で制作されることが必要となってきます。

■EDUPUBへの期待
電子書籍の業界標準であるEPUB規格には、e-ラーニング教材として利用するための規定などはありません。

e-ラーニング教材はHTMLやFlashで制作されるケースが多く、その場合JavaScript を利用してLMSにデータを送信するのが一般的です。EPUBにもJavaScriptを埋め込むことはできますが、それをリーダーアプリがサポートしているとは限りません。

つまり、EPUBがe-ラーニング教材として使えるようになるためには、EPUB規格にリーダーアプリ側の動作についても規定が必要になってくると思われます。個人的にはEDUPUB規格でそのあたりがサポートされることを期待しています。

電子教科書と言えば、本連載でも何度か取り上げたiBooks Authorも元々は電子教科書を作成するのが主な目的のアプリでした。

iBooks Authorで作成した電子教科書もスタンドアロンで利用するタイプのコンテンツです。iBooks Authorコンテンツは現在のところ、MacまたはiPad用のiBooksでしか閲覧できませんが、安価(無料)で高品質の制作アプリが提供されている、という点はEDUPUB規格でも望まれるところです。

HTMLベースの電子教科書も面白い選択肢だと思います。多くの環境で利用できますし、LMSとの連携も当然可能です。ただ、オンライン上のコンテンツにすると、誰でも自由にアクセスできると不都合があるかもしれません。例えば学校単位でのアクセス制限などが必要になるのではないでしょうか。

その場合、卒業したらその電子教科書は利用できなくなってしまうのだろうか?といった素朴な疑問も出てきます。

HTMLベースの電子教科書に限ったことではありませんが、LMSとの連携とスタンドアロンでの利用が両立できると素晴らしいでしょう。

■最後に
システム的なことは正直あまりよく分からないのですが、教育利用となると色々な視点からの要望が出てくるだろうな、と想像します。

特に教師と生徒のやり取り、生徒同士のやり取り、共有する部分としない部分(例えば、マーカーを引いた部分は生徒間で共有できるが、メモは共有しないとか)など、関心を持っている部分です。

的外れなことも書いたかもしれませんが、今後もEDUPUBや電子書籍の教育利用については触れていこうと考えています。

■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
Facebook:https://www.facebook.com/takuya.hayashi


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iBooks Authorレッスンノート
林 拓也
ラトルズ
2013-07-19