日銀の黒田総裁は1月22日の会見で、2%としている物価目標の達成のためには、今春の賃上げが重要だと指摘した。首相が経済界に賃上げを求めることが異例なら、日銀総裁の同様の発言もまた、「異例中の異例」である。

賃上げはデフレ脱却には不可欠なのだが、企業側の事情としてはおいそれとは応じることができず、賃上げとなる企業が一部にとどまりそうなことは、先週の記事でもふれた。

だが、景気の足を引っ張る要因は、実は消費税増税だけではない。今回は、この辺の事情についてふれてみたい。



■実は9兆円の大増税?
安倍政権は経済界に賃上げを求めている。多くの大企業の労働組合は、今春、1%のベースアップ(ベア)を求めている。これに定期昇給(約2%分)を加えると、ほぼ3%の賃上げになるという計算だ。

だが、仮に大企業のすべてが3%の賃上げを行ったとしても、これは増税分とイコールなので、実質的に収入が増えたことにはならない。大企業で働く勤労者は全体の3割程度だから、多くの国民にとっては収入は減っても、増えることはない。

だが、国民の負担は消費税増税だけではない。4月に予定される3%分の消費税増税で、国のふところに入る税は約8.1兆円増える見込みだ。これは、国民負担の増加ということでもある。あまり報じられないのだが、4月からは厚生年金と国民年金の保険料引き上げもあり、合計すると、国民負担は年間9兆円増える。生活保護費の削減などを入れるとさらに大きいのだが、とりあえず、ここでは国民負担増は9兆円としておく。

さらに、最近の消費者物価指数(CPI)は1.5%程度上昇しているので、この物価上昇分も考えないといけない。これだけ消費が減るとすれば、経済には実に大きなマイナスになる。これでは「デフレ脱却」は難しい。

■経済対策では不足する?
そこで安倍政権は、5.5兆円の経済対策を決めて行おうとしている。国民負担を9兆円とすると、差し引き3.5兆円のマイナスだ。ないよりはましだが、増税による「負の影響」を完全に打ち消せるかどうか。

また、経済対策の主要部分は公共事業だが、近年では、公共事業の景気に与える効果は減ってきているともいわれる。公共事業が「むだ遣い」と批判されるゆえんである。確かに、東日本大震災被災地の一部では建設業の人手が不足するなどの活況となっているが、日本全体からするとどうか。

結局、政権をあげての「賃上げ」キャンペーンの効果は一部に限られ、安倍政権は黒田・日銀総裁を促しての金融再緩和と景気対策を行う可能性が高いという結論に達する。ただでさえ厳しい財政状況にかんがみ、政府には慎重な経済運営に心がけてもらいたいところだ。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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