最近のITシステムは、「クラウドファースト」がトレンドになっているという。この言葉、IT系の企業に勤めている人でも、開発系の部署でない人の中では、知らない人もいるかもしれない。「クラウドファースト」とは、システム導入時にクラウドサービスの活用を優先(ファースト)的に検討することを意味する。

IT活用がビジネスに欠かせなくなった今日、ITを積極的に活用している企業では、「クラウドファースト」という考え方で、社内システムを考えるようになってきているという。

なぜクラウドファーストという状況が生じたのか、そしてその状況とは、いったいどういう意味であるのかについてNTTコミュニケーションズ(NTTCom)が勉強会を開催した。
今後も成長が見込まれるクラウド業界における企業の動向、国内/海外のクラウド事業者の動向やサービスの特長、および今後の展望などについて詳しく解説されたので、その様子をお伝えしよう。



■運用作業・運用コストが平準化できる- NTTCom林氏
講師はNTTコミュニケーションズクラウドサービス部の林雅之氏だ。同氏はNTTコミュニケーションズに勤務している傍ら、一般社団法人クラウド利用促進機構総合アドバイザーや、国際大学GLOCOM客員研究員の肩書きを持つ、いわばクラウドの専門家だ。
同氏のITmediaオルタナティブブログ「ビジネス2.0」は、およそ7年間2500日以上、毎日ブログを更新している。

その林氏は、まずクラウドビジネス成長の背景の説明から開始。ここのところ日本政府は、国の政策としてクラウドを推進していること、それを受けて企業では、クラウドビジネスでのマネタイズに注力しているという。

「クラウドにすると、初期費用を抑えて、月額課金のかたちで運用する。社内でメンテする必要のあるオンプレミスでは突発的な運用作業、運用コスト発生が避けられない。クラウドにすることで、運用作業・運用コストが平準化できる。」とクラウドの優位性について説明。
NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 林雅之氏 NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 林雅之氏

■クラウド市場の競争環境と事業者の位置づけ
MM総研による「国内クラウドサービス需要動向2013.8.30」によると、国内クラウド市場は2015年度に1兆円、2017年度に2兆円に達する見通しだという。先述した「クラウドファースト」が浸透し、新規システム構築時に約7割の法人がクラウドを優先導入することでイニシャルコストや運用コストの大幅な削減に成功しているという。

企業のクラウドサービスの利用率は年々増加しており、情報系システム中心から、最近では基幹系システムのクラウド化が進展している。また海外市場では、AWS RackSpacee、Microsoft、IBM/SoftLayerが事業者の上位にランキングされている。
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このように成長著しいクラウド市場だが、林氏によると、世界のクラウド事業者の淘汰の動きがすでに始まっているという。

米調査会社IDCは、アジア・太平洋地区において、大手クラウド事業者の価格競争の激化が小規模のクラウド事業者にとっては驚異となり、大手による買収でのサービス終了などによって業者が淘汰され、市場の統合が進むと予測している。

米調査会社ガートナーは、クラウドサービス事業のトップ100の25%は合併吸収や倒産などにより、2015年までに淘汰されると予測。クラウドサービス事業の選択時に、どの程度そのサービスが永続性を持つかユーザーが認識する必要性が生じると指摘している。
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このように競争が激化してきているクラウドサービスの行きつく先は、当然料金値下げ競争だ。2014年3月から4月にかけて、Google、AWS、マイクロソフト、NTTコミュニケーションズが相次いで値下げを実施。IBM/SoftLayerも追随している状況だ(6月)。

林氏は各事業者のSWOT分析を提示し、それぞれ企業の特長を指摘。

たとえばAWSはクラウド業界をリードし、充実したサービス機能と、パートナーとの巨大なエコシステムを形成している。

マイクロソフトはWindowsやOfficeなどのこれまでのソフトウェアを活かし、クラウドへシフトしている。

IBM/SoftLayerは、SoftLayerを買収し、IBMの営業力を生かして、クラウド企業へも注力する動きがある。

NTTComは、通信事業者の強みを生かしたキャリアクラウドをグローバルに展開しているといった具合だ。それぞれのサービスにおける特徴がよく理解できる説明だろう。

■エンタープライズクラウドのユーザー動向
引き続き、エンタープライズ向けクラウドのユーザー動向についての説明があった。売上高1兆円以上では3割弱が導入済みであり、金融、サービスでのIaaS導入は2桁の伸びを示している。さらに海外に進出している企業は、IaaSを採用する割合が高い。実際、「既に海外進出している」企業の23.6%、「今後、海外進出を予定している」企業の20.3%が、IaaSを「導入済み」という状況だ。
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林氏はエンタープライズクラウドにおけるユーザー事例として、製造業での利用を挙げた。

ある企業では、事業部ごとや企業買収によりICTシステムが分散し、運用の負担増となっていた。独自仕様、独自アプリによるICTシステムのコスト増大、ICTシステムの耐障害性やOSバージョン等のセキュリティリスクの増加が、対策課題としてあった。

こうした課題への取り組みとして、業務系・生産系サーバー等の計1700サーバーの約70%をクラウド化。通信キャリアを1社に集約、コロケーションエリアも集約した。同時にグループウェアや音声サービスも共通化しICTインフラから業務アプリまでをグローバルに統合するという思い切った変更を行ったという。

このクラウド化により、企業買収に柔軟に対応するICTシステムの共通基盤を構築。ワンストップの運用保守サービス利用により管理負担軽減。トータルコスト削減・最適化(ICTコスト30%)に成功したそうである。かなり思い切ったことをしたが効果は絶大だったわけだ。

■今後のクラウド技術動向~オープンソースクラウド~
引き続き林氏は、クラウドにおける技術動向として、国内におけるオープンクラウドシステム市場を解説。

2012年のオープンソフトウェアのエコシステム市場規模は6751億6200万円だったが、2017年には1兆962億円まで成長すると予測されるという。OpenStackやCloudStackとおったオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアの台頭。オープンソースを活用したパブリッククラウドとプライベートクラウドの構築は、2015年頃から本格的に普及し出すと読む。

オープンクラウドを校正するクラウド基盤ソフトウェアとしては、オープンソースのPaaS基盤ソフトウェア「Open PaaS」、オープンソースのIaaS基盤ソフトウェア「Open IaaS」、SDN(※)「Open NW」が挙げられる。
※Software Defined Networking

林氏はプレゼンの最後に「ビッグデータ/オープンデータビジネスイメージ」という資料を提示し「ビッグデータやオープンデータを活用したビジネスモデルが、これから伸びる。」と、クラウドとビッグデータやオープンデータを組み合わせることで、さらなるビジネスが生まれると指摘、今後はこうした点にも注目していく必要があるとした。
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以上、かなりの駆け足だったが、勉強会の内容を紹介した。

日本国内におけるクラウド市場は、もはや黎明期を過ぎ、海外事業者勢の勢いが増す中、各企業の積極的な最新技術の導入が進んでいる。2014年もクラウド市場は継続的な成長が見込まれており、事業者間の競争激化、各業界のクラウド活用事例の増加、エコシステムの拡大や形態変化が生まれている。

今回の勉強会は、充実した内容で実に濃い話が聞け、非常に勉強になった。こうした早めの分析によりNTTComのサービスも質が向上していくことは間違いない。早い情報収集と正しい状況分析というのはNTTComの得意とするところだが、今後もこうした素早い市場分析による勉強会の開催をぜひ続けてもらいたい。

NTTコミュニケーションズ

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