スマホやタブレットの普及が進むと同時期に盛り上がってきている市場がある。それがeコマース(EC、電子商取引)市場だ。経済産業省が今年8月に発表した『電子商取引に関する市場調査』によると、2020年までに市場規模は20兆円台まで成長すると予測されている。

仮に国内小売市場がこのまま横ばいで推移するとした場合、マクロ的な観点からみれば、eコマース市場の拡大は、すなわちリアル店舗の売上減に直結することになる。このようにネット通販(eコマース)の台頭によりリアル店舗の存在が危ぶまれる今日、その生き残りの方法はあるのかが気になる。

“オペレーションズ・リサーチ教授”の異名を持つ南山大学の鈴木敦夫教授の研究から、興味深い結果が明らかとなったので紹介しよう。



■リアル店舗生き残りのカギは、賢い店舗レイアウト?
デパート、百貨店、スーパーといった大手小売業では、店舗の販売において、商品の陳列方法を変えれば売り上げが大幅に変化することは以前から経験的に知られていた。

実際、「ドン・キホーテ」では「圧縮陳列」という、店内を商品が埋め尽くし、多くの商品数で顧客を飽きさせない、独自の陳列方法を採り入れ成功している。ヴィレヴァンことヴィレッジヴァンガードも商品の並べ方や店頭POPに独自性を持たせ若者たちの人気を得たというケースもある。

こうした店舗レイアウトの調整・変更による手法は、南山大学の鈴木教授による「オペレーションズ・リサーチ」を活用した「最適レイアウト算出方法」によって説明ができるという。

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■伝授しましょう! 「最適レイアウト算出方法」
鈴木教授による「オペレーションズ・リサーチ」を活用した「最適レイアウト算出方法」では、次の基本的な考え方と、算出方法を行っている。

・「オペレーションズ・リサーチ」の基本的な考え方
オペレーションズ・リサーチは、企業などで普通の方法では解決することが困難な問題に対して、数学とコンピューターを活用して解決策を求めるための理論と手法を研究する学問だ。例えば、最近の例では「Jリーグの試合の日程を決める」、「JR東日本の駅員のシフトを作成する」、「コールセンターのシフトを作成する」などといった数々の問題を解決してきている。

これらの事例では、従来は手作業で行ってきたものを数学の問題として捉え、コンピューターを利用して短時間で問題を解決するシステムの作成に成功しているところがポイントだ。この手法はまだまだ十分に世間に広く認知されていないが、より幅広い問題にオペレーションズ・リサーチを適用すれば、企業での生産性向上や、業務の効率化に役立つとされている。

・オペレーションズ・リサーチによる最適レイアウトの算出方法
鈴木教授の研究室で研究を行った大手小売業では、商品の棚割りを商品グループごとに品揃えに合わせて3通り作成。実際の店舗では、この3通りを組み合わせて店舗全体の棚割りを決めているという。

こうしたことは従来、ベテラン店員の経験と勘によって行われていたが、研究室ではオペレーションズ・リサーチを応用して店舗全体の棚割りを決めるシステムを作成。実際に利用したところ見事に成果をあげることに成功した。

顧客の流動を把握し、棚割りを決めるシステムを導入、それに即した店舗レイアウト(棚割り)を行うことで売り上げを伸ばし、リアル店舗を存続させることが可能になるというわけだ。以上のように、リアルな店舗では、レイアウト(棚割り)、および顧客の流動を把握することが非常に重要であることが理解してもらえたことと思う。

そしてリアル店舗はeコマースだけがライバルではない。今年話題になった「明るい廃墟」と呼ばれたピエリ守山の例からもわかるように大型のショッピングモールやアウトレットモールは、ライバルたちとの生存競争を生き残って行かねばならない。こうした生き残りといった点でも鈴木教授のオペレーションズ・リサーチ手法は有効と思われる。生き残りの道を探している企業は、思い切ってオペレーションズ・リサーチ手法を導入してみるのはいかがだろう。

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■“オペレーションズ・リサーチ教授”鈴木敦夫教授プロフィール
氏名:鈴木 敦夫
所属:南山大学 理工学部システム数理学科
専攻分野:オペレーションズ・リサーチ
出身大学院:東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻
学会活動:応用統計学会、日本OR学会、日本応用数理学会、スケジューリング学会


南山大学