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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十四回(最終回)

■はじめに
今年は年明けから、芸能関係の大きなニュースが続いています。今回のネタの1つは芸能関係のニュースに関連するものです。

なんというか、電子書籍を扱うフットワークが軽やかになってきたように感じました。

■電子書籍ならではの記事リリース:週刊文春
本原稿執筆の時点ではほぼ収束してきましたが、ジャニーズ事務所のアイドルグループSMAPの解散騒動がしばらく大きな話題となっていました。

個人的には芸能関係のトピックにはあまり興味が無いのですが、ワイドショーはおろか一般のニュースでもしばしば取り上げられ、大きな話題となっていたことは認識していました。さて、このSMAP解散騒動の発端が世に報じられたのは週刊文春の記事だそうです。

およそ1年前、2015年1月の週刊文春に掲載された、ジャニーズ事務所の副社長へのインタビュー記事がそれだとか。

ここから電子書籍の話になりますが、週刊文春は今回の騒動が盛り上がり始めた2015年1月15日に、このインタビュー記事を電子書籍で緊急発売しました。当時の雑誌丸ごとではなく、該当記事のみということで価格も100円とお手頃です。どの程度の売り上げがあるか分かりませんが、話題性、タイミング、価格を考えるとなかなか期待できる気がします。

この事例は、電子書籍というメディアのメリットを活かしているように思えて、なかなか興味深いものがあります。「過去の雑誌」の「該当記事だけ」を「世間が注目しているタイミングで」リリースする、という点が実に電子書籍的です。

私はマーケティングについては疎いところがあり、「電子書籍的」というとどちらかというと技術的な方面から捉えがちです。例えば、文字サイズを読者が変えられる、動画や音声を使える、リンクを埋め込める、といったような点です。

また、Webで有料会員に公開、という方法も考えられるかもしれませんが(そもそも週刊文春のWebサイトの有料会員制があるのかさえ知りません)、読者にサイトの有料会員になってもらうというのは、結構高いハードルです。電子書籍ならAmazon、楽天、Appleなどの有力なアカウントがあれば購入できるので、収益性の面でもメリットがあるのではないでしょうか。

1つの事例としてご紹介しておきます。

・「文春e-Books:週刊文春が報じた ジャニーズ女帝メリー喜多川 怒りの独白5時間

■赤松健先生の「日本の全マンガ蒐集計画」
週刊少年マガジンで連載をお持ちの漫画家であり、電子コミックサービス「マンガ図書館Z」(旧コミ)を運営されている赤松健先生が、海賊版の駆逐、日本の全ての漫画の収集、作家への収益を目的に開発していらっしゃるのが「日本の全マンガ蒐集計画」です。

詳しくは赤松健先生の関連ブログ「(株)Jコミックテラスの中の人 」をご覧ください。

・「赤松健、これが究極の一手。・・・なぜ我々は「電子書籍版YouTube」を目指すか

この取り組みでひときわユニークなのは、海賊版のコミックデータを回収し広告を追加して「マンガ図書館Z」で公開する、という実験です。この発想と実行力には舌を巻く思いです。しかも、ご自身の儲けではなく業界や作家の将来を考えてということで、無関係な私でさえ頭の下がる思いです。

さて、前述の赤松先生のブログ記事で、悲壮とも思える覚悟が述べられています。

以下、引用です。

------------引用:ここから-------------
もしこの手法が強いバッシングを受けたら、私はもう電子書籍サイト運営から引退して、本業の漫画連載にでも集中しようかな・・・と思っています。なぜなら、「海賊版サイトにあるのは無視するが、マンガ図書館Zにあって作者の収益化に役立てる仕組みを作るのは許さない(=叩く)」という漫画業界からの意思表示だと、私は受け止めるからです。
------------引用:ここまで----------------

このように述べられるということは、実際にバッシングを受ける可能性を感じていらっしゃるのでしょう。

私は門外漢なのでバッシングを受ける要素などは分かりませんが、赤松先生のこの事業への熱意を拝見すると、成功を願わずにいられません。

■おわりに
センター試験も終わり、入試シーズンも本格的になってきました。

ウチは昨年、長女と次女がそれぞれ大学と高校の受験で落ち着かない日々を送っていました。その点今年は落ち着いたものですが、大雪やインフルエンザの流行のニュースなどを見ると、受験生の方やそのご家庭のことが気にかかります。教科書、参考書だけでなく、今後は受験も電子化されていくのだろうな、とも考えたりします。

以下、トレーニングの告知です。

トレーニングスクール ロクナナワークショップにて、電子書籍関連のハンズオン講座を行います。ロクナナの講座は少人数制でしっかり深く理解できます。

■「Apple:iBooksストア用電子出版講座
日時:2016年1月30日(土)11:00~18:00
料金:29,800円(税込み)
会場:東京原宿(ロクナナワークショップ)


■「Amazon:Kindleストア用電子出版講座
日時:2016年2月20日(土)11:00~18:00
料金:29,800円(税込み)
会場:東京原宿(ロクナナワークショップ)


講座内容のご確認などはロクナナワークショップお問い合わせフォームよりお送りください。

■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
Facebook:https://www.facebook.com/takuya.hayashi


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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十三回

■はじめに
早いもので今年も最後の記事となりました。今回は、年末恒例のJEPA(一般社団法人日本電子出版協会)による「JEPA電子出版アワード」の結果を中心に触れていきます。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十二回

■はじめに
iOS 9.2のリリースに伴い、Appleの電子書籍アプリiBooksもアップグレードし、バージョンは4.6となりました。今回はこの辺りをチェックしてみようと思います。

アップグレード内容は、iPhone 6s/6s Plusに搭載された3D Touchインターフェイスへの対応と、オーディオブック再生の調整に関するもので、正直内容的には地味なものではあります。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十一回

■はじめに
今回は、個人的な思い出を喚起するトピックを2つ取り上げてみます。

「思い出を喚起するトピック」と言ったものの、ちょっと考えるとここ何回かは結構その手のトピックを扱っているような気もします。

まぁヨシとしましょう。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十回

■はじめに
本電子書籍連載記事の担当さん()からサジェスチョンをいただいたので、今回は電子書籍の失速と印刷本の復権について考えてみたいと思います。

アメリカの状況などもチェックしてみますが、出版関連では電子書籍でも印刷本でも日本と文化や状況がかなり異なるので、直接的な参考にはならない可能性が高いことを予めおことわりしておきます。

※編集部注:編集長

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十九回

■はじめに
今回はあるWebサービスの終了と、別のWebサービスのスタートに関する情報をお知らせします。いずれも電子書籍のひとつの節目とも思えるものです。

思えばこの5~6年で電子書籍界隈も随分大きな変化がありました。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十七回

■はじめに
今回の記事のネタを考えていたら、電子書籍界隈で大きな話題となる出来事がありました。本記事が公開される頃にはネタとしての新鮮さは無くなっていそうですが、興味深い出来事なので少し触れてみようと思います。

とある雑誌の電子版に関するもので、雑誌名を明示するかやや悩んだのですが、明示することとしました。
話題の主役は「an・an(アンアン)2015年9月16日号No.1970」(以下、アンアン16日号と表記します)の電子版です。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十六回

■はじめに
2015年9月1日に、Amazon KDP(Kindle Direct Publishing)とApple iBooksストアからお知らせメールが届きました。
これらのお知らせの内容を紹介します。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十五回

■はじめに
今回はWebで見かけた、マンガ関連のトピックをいくつか取り上げようと思います。特にスルドイ視点からの分析などはなく、とりとめのない雑感程度のものですがご容赦を。
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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十四回

■はじめに
ご無沙汰しておりました。先月7月9日と13日に続けざまに公開させていただく代わりに、前回はお休みをいただいたので3週間以上間が空いたことになります。実は書籍向けの原稿を7月いっぱいで仕上げなければならず大ピンチだったので、イレギュラーなスケジュールでやらせていただきました。全くもって個人的な都合で恐縮です。

書籍は内容的に直接的に電子書籍に関するものではないのですが、電子版も出版予定なのでリリース情報が揃ったら改めてお知らせさせていただきます。さて、そんな事情で今回は(も)ネタの準備ができておりません。思いつくままに2つトピックをご紹介します。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十三回

■はじめに
前回の記事でお知らせした通り、iBooks Authorアップデートネタの後編です。今回はiBooks AuthorからのEPUB書き出しに関するトピックです。
※今回は、諸事情により変則的な掲載になることをご了承ください。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十二回

■はじめに
2015年6月30日(日本では恐らく7月1日)にiBooks Authorがアップデートしました。iBooks Authorのアップデート内容を見ると以下のような記載があります。

・iPhone用iBooksで、iBooks Authorで作成されたブックがサポートされます

・新しいePubテンプレートを使って、マルチタッチブックを作成できます

今回はこれらについて少し触れてみようと思うのですが、まず今回分は前編ということでiPhone用iBooksのiBooks Authorブック対応について紹介し、近日中に後編としてePubテンプレートに関するトピックを紹介しようと考えています。その代わりと言ってはなんですが、通常スケジュールの7/23はお休みをいただきます。日程がイレギュラーですが、ご了解ください。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十一回

■はじめに
2015年6月15日にAdobe社のクリエイティブツール製品群、Creative Cloud(以後「CC」)の2015年版がリリースされました。

ということで、今回はそれに伴ってAdobe関連の電子書籍周りのトピックを扱います。・・・が!正直微妙でございます・・・。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第五十回

■はじめに
前回Apple関連のネタを扱いましたが、今回もAppleネタで行ってみたいと思います。今回のネタはhon.jpさまのニュースから拾わせていただいております。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十九回

■はじめに
本ブログは隔週で掲載しているので、1回お休みすると約1か月ぶりとなります。
今回は情報系の内容で行ってみようと思いますが、約1か月の間のニュースからピックアップするので、タイミング的に微妙なトピックがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十八回

■はじめに
前回はAppleの電子書店であるiBooksストア向けの電子書籍を制作している方向けに、電子書籍の実機表示確認のプロセスを効率化するアプリ「Book Proofer」のトラブルについて紹介しました。

紹介したトラブルは記事掲載時の半年ほど前から確認されていたものなので、「まだ解決されていない」という中間報告的な意味合いが強い内容でした。

今回は、前回お知らせしたようにMac版のiBooksの校正機能(実機表示確認機能)について紹介します。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十七回

■はじめに
個人的な話ですが、メインで使っているMacのOSを先日Yosemite(10.10.3)にアップデートしました。それまでは仕事で使うアプリが確実に使える環境としてMavericks(10.9.5かなんか)を使っていたのですが、案件の区切りがよくなったので遅ればせながら今回アップデートを決行した次第です。

併せてiPhone、iPadのOSもアップデートし、いずれもiOS8.3にしてみました。手持ちのMac/iOSデバイスの環境が2015年4月時点の最新環境になったことで、電子書籍制作に関する環境を少し確認してみました。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十六回

■はじめに
かねてから告知があったとおり、家電量販店のヨドバシカメラが電子書籍サービスを開始しました。

せっかくなので(?)今回はヨドバシカメラの電子書籍サービスを少し触ってみた感想をお知らせしようと思います。

詳細な検証や他ストアとの比較などは他所さまにお任せするとして、こちらでは軽い感じで扱うことにします。

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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十五回

■はじめに
去る2015年3月11日にJEPA(日本電子出版協会)主催のセミナー「デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回」が開催され、私も参加させていただきました。

電子教科書や電子教材は、本ブログのメインテーマである個人出版とは少し距離のあるトピックですが、個人的に興味がある分野なので今までもたまにネタとして取り上げてきました。

これまでも何度かEDUPUB関連のセミナーに参加したことはあったのですが、正直なところ前提となる知識が不足していて、受講してもあまりピンとくることがありませんでした。

今回のセミナーでは具体的に技術的な部分に触れたセッションもあり、今までよりもEDUPUBの輪郭が少し明瞭に見えてきました。

■EDUPUBの技術的な面について
『デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回』の様子と資料はJEPAによって公開されています。

JEPAセミナー報告ページ

EDUPUBは電子書籍のフォーマットとして世界で最も普及したEPUB仕様を、教育分野で利用・応用しやすくするために拡張するための取り組みのことです。

拡張される機能には様々なものがあり、既存の他の仕様を参照するものもあります。

「既存の他の仕様を参照する」というのは、EPUB仕様でも行われています。EPUBの場合はコンテンツ部分にはHTML(XHTML)やCSS仕様を利用し、パッケージ化にはZIP仕様を利用しています。

これにより、一から仕様を構築するよりも迅速に進めることができるというメリットがあります。

この辺りの技術仕様については、JEPAのリンクの高瀬拓史氏の資料が端的にまとまっていて分かりやすいと思います。

ちなみに高瀬氏は、本ブログでも何度か扱ってきたEPUB3ファイル生成サービス「でんでんコンバーター」の開発を手掛けておられます。

さて、EDUPUBでの拡張では個人的に以下のものが目を引きました。

・印刷版がある場合にはページ番号を含める
リフロータイプの電子書籍では閲覧環境によって1画面(=仮想的なページ)に表示される分量が異なるので、絶対的なページ数が存在しません。

ですが、教科書では先生が生徒に開く位置をページ番号で指示する、というのが一般的です。

EPUB仕様にも印刷版のページ番号をリフロータイプのコンテンツに指定することはできますが、EDUPUBではもっと厳密に指定するようになるようです。

これにより、電子教科書でも開くページを指定するような使い方ができるようになるでしょう。

先進的な機能やリッチな表現が可能になるのも重要ですが、こういった部分のサポートも電子教科書の普及には大きなポイントになりそうです。

・LMS(学習管理システム)との連携
もしかしたら勘違いがあるかもしれませんが、QTI(テストと採点に関する仕様)やCaliper Analytics(学習状況の収集と分析に関する仕様)あたりは、LMSとの連携に関わるものと理解しています。

LMSの仕様として広く使われているSCORMとの連携がスムーズに行えるようになれば、既存の多くのE-ラーニングシステムに組み込めるようになるのではないかと期待しています。

・Open Annotation in EPUB
Open Annotationは注釈の共有のことです。

W3Cによって仕様化が進んでいる「Open Annotation Data Model」をEPUBで利用するための仕様という感じでしょうか。

ある人が電子教科書につけた注釈を別の人が見られる、というものでニコニコ動画をイメージすると分かりやすいと思います。

うまく利用できれば深みのある学習に繋げられそうです。

・EPUB Scriptable Components
これはいわゆる「ウィジェット」と呼ばれるものです。
HTMLファイルとJavaScriptで構成されるインタラクティブオブジェクトとでも言えるものです。

詳細な仕様はまだ把握していませんが、Appleの電子書籍作成アプリ「iBooks Author」にもウィジェットと呼ばれるインタラクティブオブジェクトが用意されています。

iBooks Authorでは、あらかじめ用意されているウィジェットの他に、自分で制作したオリジナルのものも利用できます。

EDUPUBのScriptable Componentsもこれに近いイメージのものかと理解しています。

EPUB仕様ではJavaScriptの使用は許容されていたものの積極的ではありませんでした。EDUPUBでは必要性が段違いとなるので積極的に利用する前提となるようです。

ざっといくつか挙げてみましたが、これら以外にもさまざまな拡張仕様やルールがあり、相当なボリュームとなりそうです。

ふと思い出したのは、EPUB3仕様が正式リリースされた後のことです。EPUB3仕様は当時かなり大きな仕様と認識され、リーダーアプリのEPUB3対応がなかなか進みませんでした。EDUPUBも仕様が決まってからのリーダーアプリ側の対応が大変そうです。

■最後に
前回の第四十四回では、佐賀県立高校の電子教材の運用について触れました。

電子教科書の仕様やリーダーアプリといった環境が整っても、それをどうやって運用するのか、いつまで電子教科書を利用できるのかといった部分でも色々問題が出てきそうな気がします。

先日、政府が義務教育課程における電子教科書を無償配布の対象とする検討を始めた、というニュースも目にしました。

コスト面に加えて周辺の問題についても、様々な想定のもと議論をしていただきたいと思います。

例によってハンズオントレーニングのお知らせです!
いずれも原宿のロクナナワークショップのハンズオン講座です。

「Amazon:Kindleストア用電子出版講座」
Kindle向けの電子書籍の制作とリリースの手順を扱った講座です。

「Apple:iBooksストア用電子出版講座」
iBooks Authorを利用した電子書籍の制作と、iBooksストアへのリリース手順を扱った講座です。

いずれも、電子書籍の制作はハンズオン、リリースの手順はセミナー形式で行います。

是非ご参加ご検討ください!

■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
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個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第四十四回

■はじめに
今回は、電子書籍に関係する権利(範囲が広くて恐縮です)について少し扱ってみようと思います。

「電子書籍に関係する権利」については、第四〇回の中で電子初期の読者の権利について触れたことがあります。

このときは、電子書店のサービス終了に関連して、「電子書籍について読者は書籍を購入しているのではなく、書籍の読書権を購入している」という内容を紹介しました。

今回は読者の権利だけでなく「コンテンツの権利」に関連したトピックを2つ紹介します。

■佐賀の県立高校の電子教材
佐賀県では2014年度から全県立高校の1年生に、標準教材としてタブレットPCの購入を義務付け、電子教材を導入しました。

導入された電子教材は、教科書を始め辞書、問題集、地図などの副教材も含まれているそうです。

ただし、これらの教材は業者との契約により、利用期限が平成26年度のみとされていたらしいのです。

そのため、これらの教材は26年度中(春休み前)にアンインストールする必要があり、その際に電子的に追加したメモなども失われてしまうとのこと。

PCからは教材がなくなっているので、春休み中に電子教材を利用した復習もできません。

なお、これらの情報はニュースサイトから得たもので、私自身が佐賀県教育委員会に直接確認を取ったわけではないので、事実誤認の可能性があるかもしれないことをお知らせしておきます。

さて、私はこの件について表面的なことしか知らない上に、教師・生徒といった利用者の方々にお話しを伺ったわけでもないので、ことの是非については意見を控えさせていただきます。

ただ、この件から考えさせられることは少なからずあると感じます。

まず、このケースではPCおよび教材の購入決定者(県教育委員会)と料金を支払う者(生徒家庭)が、異なっているのが注意点です。

生徒(家庭)の立場としては、電子教材については印刷物の置き換え程度の意識しかなかったのではないかと想像します。

電子書籍というものにある程度理解のある私でも、教育委員会が選んだ電子教材なら疑問を持たずにずっと利用できると思い込んでいただろうと思います。教材のライセンスが1年であったことについてはどうでしょう。その理由は知りませんが、第一印象としてはコンテンツ業者を一概の責めるのは酷な気がしました。

まずはその理由を伺いたいものです。

電子教材のライセンスとその影響については、まず業者と教育委員会での十分な情報と理解の共有が必要でしょう。そしてさらに教育委員会と生徒家庭の間での情報と理解の共有が必要になってきます。

普通の結論ですが、普通のことを普通に実行するのはなかなか難しいことです。今後同様のことを検討している自治体には、参考になることが多いでしょう。

■著作権侵害の非親告罪化
まず、このトピックは電子書籍に限らず、もっと広い範囲の話になります。

ただ、個人の商業出版が容易に可能となった電子書籍では、今後気を留めておくべき問題だと思います。

現在、著作権侵害については著作権者が告訴することで、検察が起訴できるものとなっています。これを「親告罪」といいます。

あるコンテンツの二次創作モノなどは著作権侵害にあたるものがあったとしても、著作権者が黙認していれば罪に問われることはありません。

二次創作モノなどは、作品の知名度を高めたり作品を取り巻くコミュニティを活性化させたりといった作用もあるので、黙認されているケースは少なくないと思います。

これが「非親告罪化」つまり、著作権者以外からの通報などにより起訴されるようになると、その影響は想像以上に大きくなる可能性があります。

様々な分野での創作活動の委縮や、足の引っ張り合いのようなことも起こってくるかもしれません。

近年、著作権侵害が非親告罪になる可能性についての議論を聞くことが増えてきました。

これは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が締結された場合の影響として想定され得る事態であるためです(本記事執筆数日前の深夜の番組でも取り上げられていました)。

私が最初に、TPPの影響による著作権侵害の非親告罪化の可能性について耳にしたのは、4~5年前の電子書籍系飲み会での参加者によるLT(ライトニングトーク)でした。

当時、私の妻が某コンテンツの二次小説を自費出版(印刷物)していたので、頭の片隅にずっと残っていたのです。

前述の通り、電子書籍による個人出版の敷居が下がっている今、この件は推移を見守っていきたいトピックの1つと考えています。

■最後に
世間話になりますが、受験シーズンもそろそろ大詰めですね。

個人的な話になりますが、今年は長女と次女がそれぞれ大学受験と高校受験の受験生です。

そんなこともあり、佐賀県立高校の電子教材の件は興味深いものがありました。

今後はEDUPUBの仕様策定も進み、電子教材を採用する学校も増えてくるでしょう。

実際、長女は既に電子辞書を利用しています。さらに自分の娘たちが副教材ではなく、電子版の教科書を使う日が来たら、なんだか感慨深いものがあるんだろうな、と感じています。

例によってハンズオントレーニングのお知らせです!
いずれも原宿のロクナナワークショップのハンズオン講座です。

「Amazon:Kindleストア用電子出版講座」
Kindle向けの電子書籍の制作とリリースの手順を扱った講座です。

「Apple:iBooksストア用電子出版講座」
iBooks Authorを利用した電子書籍の制作と、iBooksストアへのリリース手順を扱った講座です。

いずれも、電子書籍の制作はハンズオン、リリースの手順はセミナー形式で行います。

是非ご参加ご検討ください!

■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
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関口哲司

日本大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。理学博士。日本物理学会会員。データサイエンティスト協会会員。IT系記事を中心に著書多数。原稿の依頼歓迎。

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